視聴率は決して高いとは言えない。それでもテレビ局が「ドキュメンタリー」を作る理由。

『環境クライシス~凍てつく大地の環境難民』が放送される
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大気汚染が問題になっているモンゴル・ウランバートル 撮影・竹田有里
竹田有里

ドキュメンタリーには制作者の熱意と周囲の理解が必要だ

筆者はテレビ局に勤務しながら小説家としても活動している。テレビを作るのも小説を書くのも、大事なのは「何かを伝えたい」という熱意だが、企画を通す際に周囲の理解がないとなりたたない点も一緒だ。私の小説の場合、同僚、上司たちが執筆に関して理解を示し、応援してくれていることが非常に大きい。ソフトを作る会社ならではの環境だと思うが、ある後輩の報道記者の熱意が社内各部署を動かし、スポンサーの理解も得て、環境問題を真正面から捉えた一本のドキュメンタリーに結実した例があり、紹介させていただきたい。

テレビ業界で働くことを希望する学生でドキュメンタリー制作を目指す人は多い。だが、現実のテレビ局でドキュメンタリーが主力商品であるかと言えば、必ずしもそうではない。筆者が勤務するフジテレビの場合、「ザ・ノンフィクション」というドキュメンタリー枠が日曜日の午後にあり、世間から評価していただいているが、ドラマやバラエティーと比較すれば枠自体が少ないため、希望通り、ドキュメンタリーを作ることができる人は限られてしまうのが現実だ。

きっかけは北極海の氷の写真を見たことだった

ただでさえ、作るチャンスが少ないのにドキュメンタリーを作る上で大変なのが、膨大な取材時間が必要なだけでなく、社内で企画を通し、スポンサーを見つけることだ。そんな中、社会部の記者をしながらドキュメンタリー番組を制作したのは、1995年に入社、報道カメラマン、文部科学省、国交省の担当記者を経て、ベルリン支局に赴任した大塚隆広だ。

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大塚隆広プロデューサー

筆者が警視庁担当の記者時代に、大塚がある風俗店の強制捜査で応援に来てくれたことがあった。現場の捜査員に怒られるほどアグレッシブに取材し、捜査が終わった後で2人して警察幹部に怒られたのは良い思い出だ。その後も、そのバイタリティを生かし、取材現場でがんばっているなと思っていたが、ドキュメンタリー番組をプロデュースしたと聞いたときは正直驚いた。夜討ち朝駆けの記者生活の中で番組制作に手を出すのは正直、かなりの負担だからだ。

大塚がドキュメンタリー番組を作るきっかけとなったのは、赴任先のドイツで見た環境意識の高さだった。さらに国交省担当だった時、取材で知り合った旅客機のパイロットから見せられたある写真に衝撃を受けたのだという。

「北極海の氷が年々小さくなっている現実をパイロット自身が撮影した写真で見せられたんです。本当にショックでした」(大塚プロデューサー)

地球が危機に瀕している───そう実感した大塚は行動に移した。世界で何が起きているのかを脚色せずにそのまま伝えたい。そう考えた大塚が相談したのはかつての仲間たちだった。

「自分で何ができることがないのか。そう思った時に相談したのが、かつて夕方のニュース番組で一緒に仕事をした仲間のディレクターたちでした」(大塚プロデューサー)

スタッフと共に選んだのは、経済大国となりつつあるインドで、気候変動に伴う洪水や海面上昇、干ばつなどの被害に見舞われている地域で人々が苦しんでいる実態だった。気温が50度を超える砂漠では10キロの道のりを歩き水汲みする少女を、海面上昇などのために沈みゆく島では住処を失いつつある親子を取材、世界で急速に進む気候変動によって生活環境が激変する中で、苦しくてもたくましく生きる現地の子供たちの姿をありのままに描写したドキュメンタリー番組、『環境クライシス~沈みゆく大陸の環境難民~』が2017年8月19日に放送された。

現地の状況をありのままに伝えたいという思いから、現地で取材した素材を生かすため、なるべくナレーションを少なくするようにするなどこだわった。放送の反響は大きかった。ある小学校では環境教育の教材として採用してくれたほか、2017年11月にドイツで開かれたCOP23(国連機構変動枠組条約第23回締約国会議)のジャパンパビリオンでも上映された。

第2弾の舞台はモンゴル。遊牧民を襲うゾドの悪夢とは?

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大気汚染の被害はモンゴルの子供達を蝕んでいる 撮影・竹田有里
竹田有里

そして、第2弾になる『環境クライシス~凍てつく大地の環境難民』が5月26日に放送される。第2弾の舞台は「世界最悪の大気汚染」にさらされているモンゴルだ。モンゴルは言わずと知れた遊牧民の国。番組では雄大な大自然の中で暮らす彼らの暮らしが紹介される。家畜と共に暮らす遊牧民の生活は厳しくも、魅力的に映る。

だが、そんなモンゴルの人を地球規模で起きている気象変動の波が苦しめている。彼らにとっての一番の脅威、それはモンゴル特有の異常気象「ゾド」だ。本来、草原に住んでいる遊牧民が、ゾドによる寒波で家畜を失い、慣れない都会に住まざるを得ない状態に追い込まれている。またゾドは首都ウランバートルの大気汚染に拍車をかけている。ウランバートルの大気汚染は北京の5倍とも言われ、天気予報で煙の予報があるほどだ。煙は気管支ぜんそくなど子供深刻な健康被害をもたらしているという。そんなゾドは地球温暖化が進んだことで頻度が増えている。

「そうした気象変動によって住む場所を追われた人たちは、いわば『環境難民』だと思うんです」(大塚プロデューサー)

第1弾の視聴率は決して高いとは言えなかった。だが、スポンサー企業は大塚の熱意を汲み、放送の意義を重視した上で次作を期待する声を寄せてくれた。そうした理解があったからこそ、第2弾の放送につながったのだ。地球環境を次世代に引き継ぐために我々は何をなすべきか。番組では大気汚染に関する日本企業の取り組みなども紹介される。