貧困層の子どもたちが、和太鼓をフィリピンで叩く理由。東日本大震災を受けて作られた曲を…

フィリピン・セブ島に世界で活躍する和太鼓バンド「GOCOO」を招いて一緒に演奏しようと、クラウドファンディングで支援を募っている。
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フィリピン・セブ島の子どもたち

フィリピン・セブ島の貧困層の子どもたちが、地元で開かれる「BON ODORI 2020」の舞台で日本にメッセージを届けようと準備を進めている。NPO法人を通じて日本から支援を受けている子どもたちで、日本で大きな災害が近年相次いでいることを知り、「日本の人々に恩返しをしたい」と企画しているという。

世界で活躍する和太鼓バンド「GOCOO(ゴクー)」を招いて一緒に演奏しようと、クラウドファンディングで支援を募っている。

 

「DAREDEMO HERO」とは?

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セブ島

日本から約5時間のフライトで到着するセブ島。

美しい海に囲まれたリゾート地として名高い島だが、その裏では貧困ゆえに学校に通うことができない子どもたちや、路上で寝泊まりしながら生活するストリートチルドレンが数多く存在している。

フィリピンの民間調査会社ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が2019年12月に発表したデータによると、自らを「貧困層」と捉える世帯の割合は54%にのぼる。

貧困問題を抱えるセブ島で、子供たちに教育を受ける機会を与え、将来を背負って立つ人材を育てようと2013年から活動を続けているのがNPO法人「DAREDEMO HERO」だ。

今回のクラウドファンディングを立ち上げたのは、関西大学3年の松本一紀さん。2019年8月からDAREDEMO HEROでインターンとして働き、セブ島の貧困層の子どもたちをサポートしている。

松本さんがセブ島へ向かったのは、どのような思いがあったのだろうか?

 

日本に特別な思いを抱くセブ島の子どもたち

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セブ島の子どもたちと松本一紀さん(右から3人目)

「私は日本で学習塾でアルバイトをしており、そこで子どもたちに何かを教えることに喜びと、生きがいを感じていました。そこで、将来は教育者として、子どもたちにたくさんのことを教えたいという夢を持つようになりました。

当時、塾のアルバイトをしながら私がなりたい教育者とは何かと考えていた時、ふと『ここにいる子どもたちは学校に行くことができている。学校に行っていない子どもたちは今何をしているのだろう』と思いました。そこで私はフリースクールでボランティア活動を始め、いじめや学習障害、隠れた貧困問題を目の当たりにしました。しかし、その子どもたちに当時の私は何もしてあげることができませんでした」(松本さん)

自分の無力さを痛感し、もっと経験や見聞を広め、子どもたちのために自分に何ができるかを探求しようと決心。文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」の制度を活用し、セブ島に渡ることを決意したという。

「DAREDEMO HEROがサポートしている貧困層の子どもたちは、日本のスポンサー様からの支援のおかげで学校に通うことができています。そのため、子どもたちは日本に特別な思いを抱いています。

また、インターンである私たちが日本語を教えており、さらに日本からいらっしゃるボランティアの方々と交流する機会もあり、日本に興味を持つ子どもたちが多いのです」(松本さん)

 

自分たちができることで、日本に恩返しがしたい

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GOCOOのメンバーと、ワークショップに参加した子どもたち

ある日、松本さんは日本が近年、地震や台風、豪雨など、多くの自然災害に見舞われていること、また日本にも学校に行くことができずに悩んでいる子どもたちが多くいることを話したという。

「DAREDEMO HEROの子どもたちにとって日本は自分たちを支援してくれる豊かな国、憧れの国というイメージがありました。そのため、日本のネガティブな現状に子どもたちはとても衝撃を受けたようでした。そして、すぐに『日本の人々に恩返しがしたい、自分たちに何かできることはないの?』と聞いてきたのです」(松本さん)

金銭的な支援やボランティアに赴くことはできないDAREDEMO HEROの子どもたちは自分たちにできることを模索し、そして、“日本に感謝の気持ちを伝えたい”という答えを出した。

それをどのように伝えるかを話し合う中で、松本さんは子どもたちから和太鼓チームGOCOOの話を聞いたという。

「セブ島では2014年からほぼ毎年、日本とフィリピンの交流イベント“BON ODORI”が開催されています。非常に人気のあるイベントで、2017年には3万人以上のフィリピン人や日本人が集まりました。

その2017年の“BON ODORI”で世界的に有名な和太鼓バンド・GOCOOが代表曲『ELEVEN』を演奏したのですが、パフォーマンスに魅了された子どもたちはメンバーの方々にお願いをして、太鼓の打ち方、演奏にかける想いを教えていただく機会を得ました。

子どもたちはGOCOOと出会えたこと、和太鼓を一緒に演奏したことを今でも嬉しそうに話してくれます。その時から、子どもたちの中に『いつかGOCOOと一緒にステージで演奏をする!』という大きな目標が生まれたようです」(松本さん)

 

祈りの音色「ELEVEN」を届けるために

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2017年のBON ODORIに出演したGOCOOのメンバーたち

1997年にデビューしたGOCOOは、和太皷の概念を越えた独自のスタイルと音創りで国内外・ジャンルを問わず支持されている和太鼓バンドだ。「サカナクション」や「ゆず」らとコラボレーションした実績があるほか、2009年には、Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれた。

そのGOCOOの代表曲「ELEVEN」は2011年の東日本大震災を受け、世界平和を祈り、苦難の時代でも生き抜いて希望を捨てないで欲しいとの願いが込められている。

その祈りを知った子どもたちは、「ELEVEN」の音に自分たちの想いを乗せて、日本のみならず世界にも思いを届けたいと松本さんに話したという。

子どもたちのその思いを実現してあげたい。

そう思った松本さんが舞台として選んだのが、「BON ODORI 2020」だ。

2020年6月6日と7日の2日間、セブ島でも1、2を争うビッグモール「SMシーサイドシティセブ」で開催予定で、動員数5万人を目指している。ちなみに、松本さんは「BON ODORI 2020」の実行委員としても活動中だ。

「DAREDEMO HEROの子どもたちと一緒に『ELEVEN』を演奏してもらうために、GOCOOを招待したいと思っています。ところが、それを実現させるためにはGOCOOがセブ島に来て演奏を行うための渡航費や、子どもたちが使用する和太鼓を日本から運ばなくてはいけなく、その輸送費が高いため、全部で150万円が必要なのです」(松本さん)

この資金を集めようと、現在、松本さんはクラウドファンディングで支援を呼びかけている。

「目標金額150万円を達成すれば、子どもたちの『想い』を和太鼓の音色にのせて日本に世界に届けることができます」(松本さん)

 

苦しんでいる日本の子どもたちに勇気を

松本さんがこのプロジェクトを実現させたい理由はもう一つある。

「セブ島には、貧困ゆえに路上で寝ているストリートチルドレンや、麻薬などで家庭崩壊してしまった子どもが多くいます。しかし彼らはその過酷な生活を乗り越えて学校に通って勉強をしているのです。

フィリピンと比べると豊かで恵まれている日本ですが、不登校などで苦しんでいる子どもたちがたくさんいます。そうした日本の子どもたちに、フィリピンの子どもたちの言葉を届けたいのです。

困難を乗り越えた彼らの言葉には重みがあります。その言葉によって日本で苦しんでいる子どもたちが救われ、1歩踏み出す勇気を持ってもらえたらと思っています」(松本さん)

2020年8月にDAREDEMO HEROのインターンを終えて日本に帰国予定の松本さん。1年間のインターンシップの集大成とも言えるこのプロジェクトの支援受付は2月11日まで。プロジェクトのページはこちら


(取材・執筆=岡本英子)