いま組織に足りないのは「アホ」っぽさ。世界で求められる「自分を笑い飛ばせる」人材とは。

ヨーロッパの組織・人材開発カンファレンスで行われた、へんなセッション
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「ハンガリーの海」と言われるバラトン湖の近くで行われたインテグラル・ヨーロピアン・カンファレンス
Integral European Conference

先週、5月23日〜28日に、ヨーロッパの中心にあるハンガリーで、大きなカンファレンスが開かれた。組織や人の「成長」に関わっているコンサルタント、カウンセラー、経営者や教育者たちが計47ヶ国から約550人が集まり、これからのグローバル社会で求められる組織・人材開発について話し合った。

1つだけ、カンファレンス中に "へんなセッション" があった。

タイトルは「自分を笑い飛ばす方法」。最初は首をかしげたものの、「これだけでも、飛行機に15時間乗ってカンファレンスに来た意味があった」と最終的に思った。気取らない「アホさ」をさらけ出せる人こそ、組織に必要だ——。セッションからは、そんな独特のメッセージが伝わってきた。

突然はじまった、「アホの時間」

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突然現れた3人のピエロ
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カンファレンス2日目の朝。「愚か者になったつもりで、アホっぽいことやっちゃおう!」と参加者に呼びかけるセッションが開かれた(Session of "FOOL")。

ドイツのクリニックの経営改革事例や、個人の「エゴの発達」に関するキーノートスピーチなど真面目な話が終わった後、突然、ピエロの帽子をかぶった人が3人が壇上に現れた。

1人は成人の発達理論における権威の学者、1人はお坊さん、1人は歌手だ。

彼らは壇上に登るやいなや、「みなさん、これからfoolの時間ですよ〜〜」と言って、まず私たちを全員起立させた。英語で「fool」と言っていたが、関西地方で愛情をもって使われる「アホ」に近いようなニュアンスだった。

「後ろを振り返って、そして、自分が座っていた椅子と、よく向き合ってみてください」

しばらく私たちはその椅子とにらめっこをし、揺らしたり、たたいたり、うらっ返したりして遊んだあと、その椅子を全て脇に片付けさせられた。

「会場を歩きまわって、ここにどんな人がいるのかよく見てみてください」

すれ違う人たちとちょっと恥ずかしそうに目を合わせながら、しばらく歩きまわり、合図があってから最後に目があった人とペアを組んだ。

「言葉を使わずに、順番にポーズをとってください」

私の相手は、お洒落なスカーフを巻いた、ドイツ人のおばさまだった。私はポーズをとり、それを見て相手がまたポーズをとり、それを見て私もまたポーズを変えた。

やっているうちにだんだん可笑しくなってきて、かなりふざけたポーズをとりあった。「もっとアホ(FOOL)っぽく!もっともっと!」というピエロの掛け声と共に。

「愚かさの根本は、純粋なんだ」

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「愚かさの根本は、純粋なんだ」と語るお坊さんドーシン・ネルソン・ロシ氏。
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今度は違うペアと、「最近自分がやってしまった、どうしようもなくアホすぎた出来事」についてシェアした。

その後、ピエロのお坊さんが「可能な限り笑い飛ばしなさい」と言って、壇上で手本を見せるように「あーっはっは、あーっはっはっはっはーーー、あーっはっはっはっはっは。」としばらく笑い続け、真面目な顔で「はいどうぞ」とこちらにふった。

会場全体が、「あーっはっはー!」「ひーっひっひー!」と数百人の笑い声で溢れた。

ここでようやく、ピエロたちが説明を始めた。

「アホっぽさ、愚かさというものについて、これからいちばん大切なことを教えたい。

愚かさの根本は、純粋なんだ。ほんとうに純粋なんだ。

そして、覚えておいてほしい。愚かさは、いつでも優しいんだ。

だって、それは、愛情のかたまりだから。

このカンファレンス中に、みなさんが思いつく限りの愚かなことをしてください。万が一思いつかなければ、私たちのところにきてください。このポシェットに、12の"アホミッション"のカードがあるので、それを渡します。

それから最後に、失敗について。何か思わぬ失敗をしたり、誰かの失敗を見たとしたら、それは、あなたたちが楽しむべき瞬間です。覚えておいてください。」

「エゴ」を乗り越える訓練として

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「エゴの発達理論(Ego Development Theory)」を構築した学者スーザン・クック・グライター氏
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今回、人や組織の発達を考えるカンファレンスがヨーロッパでこれほど多くの参加者を招いた背景には、いまヨーロッパで起こっているあらゆる"異変"がある。国の財政破綻、EU離脱、ポピュリズムの台頭、移民の急増、度重なるテロ・・・。企業などビジネス界だけでなく、国や社会全体が進むべき方向を見失っている。

カンファレンス1日目には、ダグラス・マレーという著者の本のタイトルを引用した「ヨーロッパの不思議な死」というテーマで、いまヨーロッパが抱える課題が改めて共有された。

こうした深刻な背景をもって開催されたカンファレンスの2日目で、いったいなぜ、「アホになっちゃおう」といったおちゃらけたセッションが行われたのか?

実は、直前のキーノートがその重要な意味合いを示唆していた。

ピエロの帽子を被って出てきたうちの1人、成人の発達理論を構築した権威ある学者スーザン・クック・グライターという女性が、「エゴの発達がいかに起こるか」について自身の理論を用いて説明をしてくれた。

「エゴとは、どんなときも自分をコントロールしようとし、説明しようとする。それによって、自分を安全に守ってくれている。

しかし、エゴの存在は、他者と共に豊富な「知恵」を生みだすことを妨げ、様々な人生の経験から得た学びをひとりよがりの「知識」に留めてしまう。」

単なる知識の積み重ねでは、わたしたち個人をより豊かな人間へと成熟させたり、組織や社会のますます複雑化した難しい問題に効果的な影響を与えることはできない。

では、エゴを乗り越えるにはどうしたらいいか。最も根本的な方法は、「死ぬということ(Mortality)」を真に受け入れることだとグライター氏は言った。しかし、本当にそれを受け入れられるようになるには長い時間と訓練が必要だ。

では、いまこの瞬間に始められることは何か。それが、次のセッションで行われたこと、つまり自分の中の「アホさ」をさらけ出すことだったのだ。

コンサルタントですら、「アホさ」が武器になる

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「The Fool Story」という会社を経営するアンジェラ・ハルヴォルセン・ボゴ氏。歌手でもある。
Integral European Conference

気取ったりせずに、ちょっと愚かな自分を出してみる。そうしてほんのちょっと自分のエゴを乗り越えることで、他者と共に豊富な知恵を生み出せる。

組織や人材開発のコンサルタントとして働く私も、日々の仕事を振り返ってみると、確かにそれを実感するときがある。私の場合は、「分からないこと」を隠さないようにしている。たとえば「社員のパフォーマンスを上げるためには、どうしたら良いか」と企業の人から質問されることがある。

私の専門は人材開発なのに、恥ずかしい・・・と思いながらも、恐るおそる聞いてみる。「すみません、パフォーマンスってなんですか?」と。

こうした場面がよくあるのだが、思い切って質問をしてみると、意外と本人もいったい何をイメージして「パフォーマンス」と言っているのか明確に頭にないことがある。

「改めて考えると、社員の理想像を具体的に描けてなかったりしますよね〜!」と、お互いのちょっとした愚かさを明るく受けとめていけば、私たちは結果的にとてもいい経営改革のパートナーになれる。

笑いなしに、真剣な話はできない

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チェコの初代大統領ヴァーツラフ・ハヴェル氏。
Photo by European Parliament/Flickr

カンファレンスが行われたハンガリーの隣国チェコで、かつて、1989年のビロード革命から民主化を率いたヴァーツラフ・ハヴェルという初代大統領がいた。

ハヴェル氏は元々劇作家として、ユーモアと芸術を通じて当時の共産党政権を批判していた。

大統領就任後も、大事な議会の合間に抜け出して公園の子供たちと一緒にスケボーで遊んだりと「ピエロ」のような謎の側面を見せながら、国民と世界から絶大なる支持を受けた彼は、自伝でこう言っている。

「説明するのは難しいが、笑いなしには、真剣なことを行うことはとてもできなかった」

自分を笑い飛ばす

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私も、「アホ」なくらい丁寧な名刺交換の仕方を、ドイツ人コンサルタントに教えてみた。
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真剣なときこそ、笑いを交える。

ハヴェル氏がその必要性を感じた理由を正確に予測することはできないが、真剣であるがゆえに、現実の片面しか見えていないということは起こりうる。

私は「人材開発」を専門に、人がよりよく生きて、よりよく働くとはどういうことかを日々真剣に考えてきた。でも、親友のように仲良くしていたアメリカ人の75歳のおじいちゃんから、ある相談を受けた時、大事なことを見落としていたと気付かされた瞬間があった。

「日々、自分の身体が衰えていって・・・いよいよ、死に向かっているんだと感じるんだよ。どうしようもないことだけれど、悲しいね。」

生きるということは、死に向かうということでもあった。彼が見せた本当に悲しそうな目を見てようやくその現実を理解した私は、言葉に詰まった。

ハンガリーのセッション中に何故か、おじいちゃんとのこの会話を思い出した。真剣さは、時に危うい。自分が真剣に物事を考えているときほど、一方でそれを笑い飛ばせる自分も、同時に持つようにしようと思った。

世界や人生をちょっとわかった気になる私たちを、もう一度謙虚に現実に向き合わせてくれるのが「アホさ」の役割ではないだろうか。「"わからない"とわかることは、"わかる"という行為の究極のかたちです」("Not-knowing" is the highest form of "knowing")と、グライター氏が言っていた。

アタラシイことを、はじめてみる

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この帽子はいったいどこで手にいれられるのだろう・・・。
Integral European Conference

日本に限らず、世界のあらゆる職場でまだまだ、真剣さの中に「アホさ」が足りない。難しい顔をしてわかったようでいて、これっぽちもわかってないと、自分たちのことを笑い飛ばすような「遊び心」が足りていない。

いま私たちや組織に求められている「成長」とは、既存の知識を真面目に学んでいくことだけでなく、その上で疑い、あるいは全く関係なく見える知識同士を掛け合わせて新しい知恵を生み出していくことだ。

そのためには、ほんの少しの時間、目の前の仕事を敢えて離れてみる。

ハフポストが開設5周年で打ち出しているキーワードのような「#アタラシイ時間」をつくってみるのもいいかもしれない。かしこまっているだけではなくて、何か自分の殻をやぶるような、それこそ「アホっぽい」ことをしないといけない、と思った。

「あーっはっは、あーっはっはっはっはーーー、あーっはっはっはっはっは。」

ピエロたちの笑い声が、まだ私の耳の中で鳴り響いている。

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ハフポスト日本版は5月に5周年を迎えました。この5年間で、日本では「働きかた」や「ライフスタイル」の改革が進みました。

人生を豊かにするため、仕事やそのほかの時間をどう使っていくかーー。ハフポスト日本版は「アタラシイ時間」というシリーズでみなさんと一緒に考えていきたいと思います。「 #アタラシイ時間 」でみなさんのアイデアも聞かせてください。