グレタ・トゥーンベリさんは母国でどう受け止められているの?スウェーデンの大臣に聞いた。

日本でもし、グレタ・トゥーンベリさんのような人が現れた時、「子どもの発言」はこのように丁重に取り扱われるだろうか?そう考えると少し疑問だ。
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スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが2018年8月、たった一人で始めた「気候のための学校ストライキ」は、世界規模の大きな若者の運動へと広がった。

ニューヨークでの国連気候行動サミット開催前、9月20日に行われた「グローバル気候マーチ」には、世界の163カ国・地域で400万人以上が参加したという。

グレタさんによるスウェーデン国会議事堂前でのストライキには、教師らも加わった。その後、国連気候会議(COP24)やEU議会に招かれ、その訴えはさらに世界に広がった。世界を動かしたのは彼女の熱意だが、同時に、彼女の主張を真剣に取り扱った周囲の大人たちの存在があった。

日本でもし、グレタさんのような人が現れた時、「子どもの発言」はこのように丁重に取り扱われるだろうか?そう考えると少し疑問だ。

母国・スウェーデンではどう受け止められているのだろうか?来日していたマティルダ・エーンクランス高等教育・研究担当大臣に聞いた。

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スウェーデンのマティルダ・エーンクランス高等教育・研究担当大臣
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

――グレタ・トゥーンベリさんのことをどう受け止めていますか?

彼女のことを私は個人的には知りません。しかし、もちろん、私は彼女を誇りに思っていますよ。言葉によって世界のムーブメントを作り上げたこと。「気候変動に立ち向かうべきだ、科学に耳を傾けるべきだ」と真摯に訴え続けていること。

私は2018年の総選挙前、毎週金曜日に彼女が一人で、国会議事堂前に座り込んでサインを掲げているのを見かけていました。最初は何をしているのかわからなかった。しかし、しばらくして数人の若者が参加し始めました。その頃、ある国会議員が彼女に尋ねると、彼女はこう言ったんです。「私は突如、この方法が自分を表現するやり方だとひらめいた。私は気候変動を本当に心配し、権力者が軽視していることが問題だと感じるんだ」と。

たった一人で始めた行動が大きなデモになり、世界中に広がった。もちろん、彼女は今や有名人ですし、スターです。しかし、そのメッセージは非常にシンプルです。

――スウェーデンの若者は皆、賛同しているんですか?

スウェーデンの若者の中にだって、全然興味がない人ももちろんいますよ。でも多くの若者が彼女の意見に賛同して行動を始めています。

スウェーデンは国としての環境への取組みで、他国より良い評価を獲得しています。それでも、私達がさらに一歩進んだ努力をするためのムーブメントが必要だったんです。

最近、若い人たちと話すと希望が持てます。彼らがこのムーブメントを一過性のものに終わらせず継続する必要があると考えているから。例えば、「大学に進学して、もっとサステナブルな社会にするためのエンジニアになる」と語る若者もいました。

ーー世界の人々と同じように、国内にも彼女を批判する声はありますよね?グレタさんの妹がいじめにあっているという報道もありました。

そうですね。でも私は自分自身のことを振り返って分かるんです。女として生まれ、長年、ジェンダー平等を実現するために政治家として活動してきました。過去に環境や気候変動にも取り組んできた。

残念なことに、どんな社会の中にだって、変えたくないという力があるのです。彼らはジェンダー平等やサステナブルな世の中になど、したくないと考えています。そのためにあらゆる手段を講じる。

でも今回はもっと卑劣ですね。彼女は子供なのですから。でも、残念ながら、私には想定内で、驚きはなかったんです。我々にできることは、彼女が安全に行動できるようにし、決して無意味な反対意見に耳を貸すことのないように祈ることだけです。

ーーストライキをやめて「学校に行くべきだ」という人もいます。それは中傷ではなく彼女の将来を思ってのことだと言えなくもないです。

まず言っておきたいのは、彼女は義務教育を優秀な成績で終えているということ。

スウェーデンにはビョーン・ボーリ(※)という有名な男性テニスプレイヤーがいます。彼は18歳で全仏オープンで優勝しました。でも誰も彼に、学校に行くべきだ、とは言いませんでしたよ。

スウェーデンには良いシステムもあるんですよ。高等教育の途中でも、何かを成し遂げたいと思った人は、学校を一度離れることが広く認められています。例えば高校生が、途中で旅に出てもいいし、働いてもいい。いろいろな経験をしたほうが高等教育に対する意欲も高まると考えています。そのシステムは、社会に良い影響を与えているのです。

例えば、教員が資格を取得する前に一度民間の会社で働くことは良い経験になるでしょう。私の息子は今19歳ですが、1年間限定で働いています。しかし、またすぐに大学に復帰する予定です。

(※)日本ではビョルン・ボルグとの表記も

ーー日本ではデモに参加すること自体に冷ややかな視線があるようです。過去の国会前でのデモには「就職に悪影響だ」などと言う人もいました。

スウェーデンでも別に、毎日のようにデモをしてるわけじゃありませんよ。もちろん、最も良いのは話し合いで物事を解決することです。しかし、デモなどの手段によって自分の意見を表明したりすることは、決して「変なこと」ではありません。

1989年、私の義務教育最後の年なので、14歳〜15歳の頃の話です。私達は、クラスで一緒になって学校でデモをしたんですよ。「大きなロッカーが教室に必要だ」と訴えてね。本やジャケットを入れるものが教室になかったんです。地元の自治体に対して、学校に知らせるべきだというアピールでしたね。面白かった(笑) 

そのアピールは成功しましたよ。教室にロッカーが置かれたのは、私達が卒業した後でしたけど。デモのおかげで、後輩たちは大きいロッカーを手に入れることができました。「日常的」とまでは言いませんよ。でも、自分たちが何を感じているかを示す手段がデモであり、それは「変なこと」ではありません。社会のために何かを改善する、ポジティブなアクションだと見なされています。

ーー日本ではそんなことをしたら「わがまま」と言われるかもしれません。

先生たちの中には、金曜日の「学校ストライキ」を授業の一環にしようと考えている人もいます。デモに参加するのは良いこと、でも単なる「サボり」とは区別しなければなりませんから。例えば参加した記録や感想をレポートにまとめることで単位として認定するとか。教科書で学ぶこととのバランスは大切ですが、我々は子供の学びをサポートしたいと考えてるんです。

スウェーデンの教育システムは主に2つのミッションを持っています。子どもたちに知識を与えること、それに加えて民主主義の中で、子どもたちがどう行動すべきかを学ぶこと。子供、若者、大人がそれぞれの権利を行使すること。

スウェーデンは長い間、子どもたちの教育において、子ども自身のエンパワメントを重視してきました。そして、彼ら自身が自分を表現するツールを与えてきました。

――知識だけでなく、民主主義のための教育という観点は日本ではそこまで重視されていないように感じます。

教育システムは、私達の社会がどう子供を見ているかによって築かれたものだと思います。彼らがどのような権利を持ち、どんな子どもでいるべきだと考えられているか。

そして彼ら自身も、自分たちの処遇を決めるため、意見を聞かれる権利を持っている。そして、真剣にそれを捉えてもらう権利も。

――グレタさんの行動もそうした教育の成果なのでしょうか?

もちろん彼女自身の能力や家庭環境も大いに関係していますから、単純にそうとは言い切れません。誰もが彼女のようなスキルを持っているわけではないし、彼女のようなことができるわけではない。

しかし、小学校のとても早い段階から、クラスの代表者は選挙で選ばれます。代表者を目指す子は、学校の様々な課題について自分の考えや理念をクラスメイトに話します。教師はそうした自己表現の方法を身につけるためにサポートします。

これはとても小さなことですが、民主主義における子どもたちの権利を行使するために、学校が行っている取り組みの一つです。私達は、知識を与えるのと同じぐらい、民主主義についての教育を重視しているんです。

マティルダ・エーンクランス 高等教育・研究担当大臣

1973年生まれ。ハルスベリ市市議会議員などを経て2002年から国会議員。環境・農業委員会委員長、教育委員会委員長などを経て2019年から現職。

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