中国の景気刺激策は「小粒感が否めない」。新型コロナは“全治1〜2年”の病となるか

「全治1〜2年、1年で済めば良い方というイメージだ」(大和総研の齋藤尚登・主席研究員)

中国の全人代が5月22日から始まった。李克強首相は政府活動報告のなかで毎年発表していた今年のGDP成長目標について、公表を見送る異例の対応をとった。

景気回復のため「今までよりも積極的な財政政策を打つ」と宣言したが、専門家の見方は冷たい。大和総研の齋藤尚登・主席研究員は「かなり小粒で、予想よりもトーンダウンした内容だ」とみていて、新型コロナでダメージを負った中国経済は“全治1〜2年”と評価した。

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2020年の全人代。中央が李克強首相
Kevin Frayer via Getty Images

■収束していない

李克強首相は政府活動報告のなかで新型コロナウイルスの影響を強調。「感染はいまだに収束していない」との見解を示した。経済面においても、国民の生命が第一だったとし「大きな代価を支払った」と話した。

そして、毎年示しているGDP成長目標については、「世界の感染状況や経済の不確定性が大きく、予測しづらい」とし、公表を見送る異例の対応をとった。

全人代では、首相がその年の成長目標を公表するのが通例。2019年は6〜6.5%を目標とし、実際の成長率は6.1%と発表されていた。

■手かせ・足かせに繋がれた政府

この政府の発表を、専門家はどう見たのか。中国経済が専門の大和総研・齋藤尚登主席研究員は「景気浮揚にゴーサインを出すかと思っていたが、思ったよりも慎重な印象を持った」と話す。

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大和総研の齋藤尚登・主席研究員(2020年3月撮影)
Fumiya Takahashi

全国からの代表をぎっしりと人民大会堂に集めた今回の大会。メディアなどの事前の予測では、新型コロナへの勝利を宣言するセレモニーになるともみられていた。だが、李首相の口から出たのは「感染はまだ収束していない」という現実的な言葉。齋藤さんは「思ったよりもトーンダウンした内容だ」とみる。

報告の目玉は、李首相が「今までよりもさらに積極的だ」と銘打った財政政策。しかし齋藤さんは「小粒感が否めない」と評価する。

例えば、前年よりも大幅に増加し、3.75兆元が発行される地方政府特別債券。これは、地方政府が借金をしてインフラ投資などにお金を使うことで、経済を活性化させる狙いがある。

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中国で進むインフラ工事
REUTERS

しかし、こうした政策も「直前の予想では4兆元と思っていた。ほかにも13年ぶりの特別国債も事前の予想では1兆〜5兆元だったが、蓋を開けてみれば1兆元と最低ラインだった。景気浮揚策としては小粒だ」という。

中国政府がリーマンショック後に実施した巨額の景気対策と比べても「かなり小粒」だという今回の発表。その背景には、まさにリーマン時の副作用があるとみられる。

中国はリーマン後の2008年、4兆元規模の景気対策を発動。日本を含めた海外をも救ったと一時は評価されたが、無理な投資も横行し、当時の不良債権は今も中国を苦しめ続けている。

「中国には当時のトラウマがあるのではないか。ある意味リーマンから学んでいると言えるし、(大規模な対策ができない)手かせ・足かせにもなっているだろう」

■公約、破棄

今回の全人代で最大の注目点は、毎年発表していた成長目標を公表しなかったことだ。それだけ中国の深刻さを物語っているとみられるが、齋藤さんは、最悪のケースは免れたとみている。

「成長率を高めに設定するよりも何倍もいいことだ。設定すると、それを無理やり達成しようと頑張る。無理のある投資が横行し、将来的な金融リスクを増大させる可能性が高まる。それをしなかったというのはプラスの評価ができる」

しかし、これは同時に、中国政府が公約として掲げた「2020年までのGDP倍増」を破棄したに等しい。公約達成には、2020年は5.6%程度の成長が必要だったからだ。李首相はこの公約について言及することはなかった。

代わりに強調したのが貧困の撲滅だ。中国の貧困者数は551万人(2019年末時点)。齋藤さんは「貧困層をピンポイントにケアすることで、十分に達成可能だ」とみている。

■全治1〜2年の理由

今後の成長エンジンに中国が見据えるのが「新インフラ」だ。李首相は5G基地局の建設や、新エネルギー車などの分野への投資を強化すると発表。政府が力を入れて育成する姿勢をアピールした。

一方、これにも課題はある。

「中国がハイテク分野で覇権を狙うためには大切な投資。ただ中身を見ると、アメリカとの技術競争の火種になりそうだ。新たな軋轢の一つとして新インフラがそ上に乗るかもしれない。それを念頭に置いたかはわからないが(発表でも)さらりと書かれていた印象だ」

大きなダメージを受けた中国。経済を刺激する策も予想よりも小粒だ。

今後の行方を、齋藤さんはどうみているのか。

「今年の成長率は0.1%程度と見ている(過去の予想から下方修正)。来年は反動で伸びると思われるが、全治1〜2年、1年で済めば良い方というイメージだ。中国国外の感染状況が厳しい。アメリカ、ヨーロッパから新興国にも広がり、さらに厳しい状況を想定する必要がある」