日本だけじゃない。性感染症の検査を受けたくない、太平洋の島の人たち

性感染症治療では検査を行うことがないので、患者さんが自分の症状を正確に伝えてくれるかどうか、がとても重要です。

太平洋にある人口27万人の小さな国・バヌアツを知っていますか。日本ではまだまだ馴染みのない国です。私はその国のクリニックで保健師として2年間働きました。そこで出会った患者さんのストーリーは、日本の常識からはみ出るようなことばかりでした。でも、恋愛をして、結婚して、家族が出来て、という過程は国が違っても、根本は同じです。

全10回の連載で、バヌアツのディープな性事情を紹介しながら、そこから見える日本の性や生きることを皆さんと考えていきたいと思っています。

私の活動先であるNGOバヌアツ家族計画協会クリニックのメインサービスの一つが「性感染症の治療」です。避妊薬を求める利用者さんと同じくらい毎日毎日患者さんがやってきます。

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配属先NGOとクリニックの同僚たちとの集合写真

バヌアツの性感染症の流行り具合は、日本以上ではないかと感じます。しかし、感染症サーベイランスシステムが整っていないので、日本のように毎月・毎年の正確な罹患者数を把握するのは難しい。そもそも「ちゃんと診断する」ということがどれ程難しいか、ということを実感しました。

性感染症の治療に対してバヌアツ人が良く言うのが「恥ずかしい」ということ。クラミジアなどを始め性感染症の初期は無症状であることが多いので、クリニックに来るときには既に強い症状を訴えています。

そんな恥ずかしがりやの国民性に追加して、日本とは違う検査方法や治療薬、治療基準が使われているので、活動を開始した当初は「まじか!」という驚きの連続でした。笑

では、私が「まじか!」と驚いたバヌアツの性感染症の治療を紹介していきましょう。

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首都から1時間ほどかかる村で血液検査を実施。白い砂浜ビーチにテントを立てて採血スペースを作ります。
  • 性感染症の検査が簡単には出来ない

感染症の検査をするのはそんな難しいことじゃない、と思っていた私。

しかし、バヌアツでは性感染症は、その都度検査は行いません。なぜならば、検体検査をその都度できる環境がないから。検体検査が行える検査室は首都の病院、または民間の検査会社のみ。小さなクリニックや首都以外の島では検体検査をすること事態が難しい。なので、そのような環境でも適切な治療が出来るように治療プロトコールがWHOにより作成されています。

例えば、、、ある患者さんが来院したら、問診の段階でどんな症状があるかを聞いていきます。陰部に痛みはあるか、かゆみはあるか、赤くなっているか、白くなっているか、分泌物はあるか、分泌物は何色か、臭いはあるか、量はどれぐらいか、お腹は痛いか、排尿痛はあるか、など等。

患者の訴える症状とフローチャートを見比べて、おそらくこれはクラミジア、淋病、トリコモナス、カンジタなどと目星を立てて、その後に治療薬を処方します。クリニックや診療所には医師は在中していないので、問診も処方もすべて看護師の仕事です。看護師が行うことの出来る医療処置の幅の広さも、日本とは大きく異なる点でした。

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診療後に看護師が薬を詰めて渡します
  • 怪しいから取りあえず全部渡しておこう

前述のとおり、性感染症治療では検査を行うことがないので、患者さんが自分の症状を正確に伝えてくれるかどうか、がとても重要です。

活動先のクリニックはリプロダクティブヘルス専門の資格を持った看護師が2人で患者を診察しています。ある程度専門性のあるトレーニングを受けているので、症状を分析し、必要な治療を提供することが出来ていると思います。しかし、問題なのはあまりリプロダクティブヘルスの治療に知識がない看護師さん。バヌアツの看護師の処置や診療の範囲は、怪我の手当や風邪の診療、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、そして性感染症や避妊、出産介助まで多岐に渡ります。避妊薬や性感染症の診療は、現場の看護師達の仕事の中では、あまり大きい割合を占めるものではありません。

なので、「とりあえず何かしらの性感染症だね。全部に効くように薬を出しておくよ」と3種類ぐらいの抗生剤を一気に処方してしまうのです。。。

  • 首都病院の検査室の課題

バヌアツの首都ポートビラにある公的な医療機関で唯一検査科を持つのは国立ビラ病院のみ。クリニックや村で血液検査をするとしたら、採取した血液検体を病院の検査科に送らなければなりません。

日本の病院やクリニックであれば、院外の検査施設に委託するとしても、搬送過程に医療従事者が関わるような機会は殆ど生じません。しかし、バヌアツの場合は検体採取、運搬、結果の回収まで、看護師業務の一部となります。

検体を採取したら、クーラーボックスに入れて、車やバスにのって病院に行き、検査科に提出して、結果が出たころに取りに行く。スムーズに行うことが出来れば問題ないのですが、スムーズにいった試しがないのです。笑 例えば、検体の紛失、検体の放置、検体容器の在庫切れのため検査が出来なくなる、国で一人しかいない唯一の検査技師がお休みしているから検査は海外へ依頼する、などなど。日本での予想の域を超える驚きの問題がたくさん生じます。

  • 患者さんのモラルの話

バヌアツの感染症治療の問題は、医療者側の問題だけではありません。患者さんの中には受診して検査を受けたのは良いものの、治療までつながらないケースが良くあります。

検査結果を伝えようとしても...

例えば、患者の携帯番号が変わっていて消息不明となる、家族で1台の携帯電話をシェアしているので本人に繋がらない、同じ人が数種類の名前を使い分けていて受診や検査の度に名前を変えたりするので患者誤認や身元不明になる、治療で何されるか分からないから怖いと言って放置する、、、などなど。

せっかく検査をしたのだから次につながって欲しいのですが、「検査をした」ことで満足して、次のステップに進むようなサポートをするのが難しく頭が痛い課題です。

という感じで「まじか!」と驚くような経験しながら、2年間現地の看護師と共に患者さんの診療に関わってきました。なんだか、文句ばかり言っているように聞こえるかもしれませんが、そういう訳ではありません。バヌアツでは日本と同じレベルで治療や検査をすることは不可能だし、バヌアツのやり方でベストを目指すべきだと考えています。

ということで、様々な課題がある中で性感染所の診断問題を解決してくれるであろう救世主が、血液の迅速検査キット。2017年に3か月間ほどですが、梅毒・HIV感染症迅速検査薬のパイロットプログラムが行われました。上手くこのシステムが機能すれば、国連の援助により大洋州の国々で検査キットが配布される予定です。

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村で採血、検体回収と運搬、結果が出た後のフォローが出来るようにNGOと村の看護師さん達と協力して検査を実施しました

昨年のパイロットプロジェクトでは優先順位として「母子保健」における梅毒・HIV感染症の予防に限定しました。

迅速検査キットを農村部の村のヘルスセンターに配布することで、村で出産する妊婦さんの検査が出来るようになったのです。簡易検査はたった15分で結果まで分かるので、妊婦さんと共に結果まで確認できるのは安心。

でも、なぜ母子保健に限定したの?その理由は、バヌアツの過去のHIV感染者の話を聞くと納得できるかと思います。バヌアツのHIVの感染率は0.002%で今までで合計12人の方が診断されています。

最初のケースはパプアニューギニアでの留学修了後に帰国した女性の方でした。帰国後に感染していることに気が付かず子どもを妊娠し、生まれたお子さんにもHIVに感染していたようです。

留学先としてパプアニューギニアやフィジーに行く人はとても多く、留学先で妻や旦那以外のパートナーを見つける、という方もいます。ということは、バヌアツよりも感染率の高い国からHIVを持ち込む確率も高いということです。

今は0.002%という低いHIVの感染率ですが、今後は何とも予測が出来ないもの。マンパワー不足、検査技術の未整備などの問題は、短期的に解決できる問題ではありません。今ある新しい技術を使って少しでも簡単な方法で検査が出来る環境が整備されることを心待ちにしています。