郵便投票が間に合わない。イタリア在住の日本人が直面した在外投票の“不備”【衆院選】

コロナ禍の衆院選。「郵便投票が間に合わない人がいるから、猶予を設けることをあらかじめやっている国もある。日本も配慮してほしい」と訴えています。
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郵便投票の書類
田上明日香さん提供

10月31日投開票の衆議院選挙の海外居住者による「在外投票」をめぐり、現地の大使館が推奨する郵便投票が間に合わないという事態が起きている。

イタリア・ペルージャに住む田上明日香さんは、事前に準備していた郵便投票が、コロナ禍の国際郵便事情などから間に合わない見込みとなった。

そのことを大使館に伝えると「現下の郵便事情を考えると、郵便投票で間に合わせるのは極めて困難」と一転、大使館での投票に切り替えるよう言われたという。

郵便投票が間に合わない問題は、コロナ禍以前から起きていた可能性があるという。

一連の経緯や、在外投票で感じる不便について、田上さんに話を聞いた。

イタリアー日本の国際郵便「20日かかった」

海外に住む日本人が投票する方法は3つ。現地の大使館・領事館を訪れて投票する「在外公館投票」、投票用紙を日本に郵送する「郵便投票」、日本に一時帰国する「国内投票」だ。

郵便投票の場合、登録先の日本国内の選挙管理委員会に対して、投票用紙を郵送で請求。選管から届いた投票用紙に記入し、再度選管に送り返すという流れだ。選管と1往復半のやりとりが発生し、一定の時間がかかる。

田上さんのもとに9月7日、在イタリア日本大使館から、新型コロナ感染状況次第で公館投票が実施できない可能性もあるため、郵便投票の検討を促すメールが届いた。

「郵便投票は今回初めてで、郵便が遅くなるかもしれない不安はありました。例えばロックダウンや自分のコロナ感染、家族が感染して濃厚接触者になることも考えられるので、郵便投票にしようと決めました」

9月17日、千葉県内の自治体の選挙管理委員会宛に投票用紙の請求書類を国際スピード郵便で送付。通常は1週間前後で到着するはずが、コロナ禍の郵便事情が影響したのか、到着に20日もかかったという。 

公示日の1週間前になっても投票用紙が届かず、田上さんは在イタリア大使館に「郵便投票が間に合わない」と不安を訴えた。 

すると大使館から「投票用紙を国内期日内までに間に合わせることは困難である可能性が極めて高いと思われます」と返事があった。

10月19日の公示日までには、投票用紙が田上さんの元に届いたが、日本の選管が送付してから8日かかったという。

イタリアの郵便事情を考えると、田上さんは公館投票への切り替えを余儀なくされた。

「スピード郵便ではなく、DHLやFedExといった国際宅配便サービスの利用も考えましたが、直前に個人的にスペインから購入した書類が(国際宅配便サービスで)届くのに10日かかりました。スペインからイタリアで10日かかるということは、公示日翌日から投開票日までの最大12日間にイタリアから日本に届くとは考えづらく、この郵便事情では間に合いません」

田上さんはペルージャの自宅から片道4時間をかけて、ローマの日本大使館に投票に向かった。

「(現地の)ワクチン接種率は高いですが、健康や命に関わるリスクがあるにも関わらず、自ら州をまたいだ移動をするのは避けたかった。リスクを冒して行くしかありませんでした」

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ローマの日本大使館、公館投票の案内
田上明日香さん提供

公館投票ができない可能性もあった

田上さんは公館投票ができない可能性もあったという。

郵便投票では、投票用紙の請求時に同封する「在外選挙人証」が、後日投票用紙と一緒に本人に返送される。途中で大使館投票に切り替える場合も、在外選挙人証を持参しないと投票ができない。

田上さんの元に「在外選挙人証」が戻ってきたのは10月14日。翌日15日以降、日本からイタリアへの国際郵便が、船便以外は一時停止になった

イタリアの公館投票の期間(10月20日~24日)を考えると、「数日ずれ込んでいたら、私の投票用紙と在外選挙人証が間に合わなかった可能性があったので、本当に危なかった」と田上さんは明かす。

以前から「郵便投票が間に合わない」

コロナ禍の郵便事情に関わらず、そもそも在外投票や郵便投票の仕組みに不備があるのではないかと、田上さんは感じている。在外邦人とやりとりすると、同じようなトラブルや不便を経験している人たちも少なくないという。

「『前回の選挙で投票用紙が返ってくるのが遅れて間に合わなかった』という人や、『一度も郵便投票が間に合ったことがなく、毎回飛行機で在外公館投票に行っている』と言っている人もいました。この問題が明るみにならずここまできてしまった気がします」

9月の大使館からの案内メールには、郵便投票から公館投票に切り替える際、在外選挙人証が返送されるまで投票できないことに注意するよう書かれていたという。

田上さんはこう訴える。

「手元に在外選挙人証が戻ってくるのが遅れて、在外公館投票に切り替えたいと思っても投票できないという問題がずっと起きていることを、外務省は知っているということです」

「間に合わない人に配慮して」

朝日新聞デジタルによると、コロナ禍やクーデターの影響で、アフガニスタンやラオスなど15公館で投票が実施されないという。代わりに郵便投票を呼びかけているが、郵便事情が悪い国では、一時帰国する以外に実質「投票する手段がない」人も出ている。

田上さんは、郵便投票が間に合わない可能性のある人たちに対する配慮として、「猶予期間を設けてほしい」と訴える。

「選挙人証の返送が間に合わなくて、大使館・領事館で投票できなかった人は、例えば公示日翌日から投開票の間の日程の消印のある票は有効にするなど配慮がないと、手段がなくて投票をあきらめざるを得ません」

在外投票の到着期限について、投票日から10日間の猶予期間が設けているニュージーランドを引き合いにして「間に合わない人がいるから、猶予を設けることをあらかじめやっている国もある。日本も配慮してほしい」と求めた。