産後離職の女性は46.9%…。子どもがいても、キャリアを積みたい そんな望みに応える職場が長野県上田市にあった。

はたらクリエイトの井上拓磨社長「いろんなキャリアを男性は選べる。一方で、なぜ女性はキャリアを醸成できないのか。凝り固まった仕事形態を変えていこうと思いました」
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子どもと共に出勤する女性
Huffpost Japan/Shino Tanaka

結婚を機に女性が会社を去る“寿退社”が死語になりつつあるものの、依然として多いのは産後離職。

1人目の子どもを生み、元の職場を辞める女性は46.9%にのぼる。だが、出産後も継続して働きたいという女性は63.6%。正社員として働く場合は、75.6%だ。

なぜ、子どもを生むと約半数の女性が離職することになるのか。保育園も預けにくい。

3歳までは母親が付きっきりで育児をしないと成長に悪影響が出るといった根拠のない“3歳児神話”も、母親に対して真綿で首を締めるようなプレッシャーをかけてくる。

保育園がなければ「子連れ出勤」をすればいいじゃない。そんな提案で「新しい施設を整備する必要もなく、企業の規模にかかわらず取り組める」と国の後押しを表明した宮腰光寛少子化担当大臣の発言が物議を醸したことも記憶に新しい。

子どもがいても、キャリアを積みたい。

その課題を解決しようと立ち上がった会社が、長野県上田市にあった。

「子どもを生んだら働き先が限られる」キャリアが途切れる地域の課題

東京都内から北陸新幹線で1時間半。

上田駅を降り、坂道を登って10分ほど歩いた商店街のなかに、企業からバックオフィス業務や文章の制作・編集業務などを請け負う会社「はたらクリエイト」のオフィスが見えてくる。

70人近い従業員のほとんどは子育て中の女性。正社員のほか、短時間勤務社員や、パートタイマーなど形態は様々だ。

午前9時ごろになると、ベビーカーを引いた女性たちが出勤を始めた。2階には、会社が経営する託児所がある。

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出勤する従業員たち
Huffpost Japan/Shino Tanaka

 子どもたちを預けた母親たちは、パタパタと1階のオフィスに降りていく。

カフェのようなフリースペースの奥に、パソコンがずらりと並ぶ。女性たちは、それぞれのチームに分かれ発注された記事を書いたり、次の企画に向けた会議をしたり。

職場は、無駄な話し声も慣れあいの雰囲気も感じさせない。目の前の仕事に集中し、昼の休憩になる正午までもくもくとデスクに向かっていた。

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はたらクリエイト提供

 輸送関連機器や、精密電気機器などを中心とする製造業が地域経済を牽引する上田市

転勤のために引っ越してくる世帯も多い。

結婚を機に夫の転勤に付き添った結果、今までの職を辞めた女性や、出産のために離職した女性にとって、「次の職場」が限られる地域でもあるという。

はたらクリエイトの井上拓磨社長は「色んな職を選べる都内と違い、地方だと出産後の仕事を探せば工場でのライン業務に応募するか、スーパーやコンビニのレジ係などといったサービス業しか選べないことが多い。せっかく築いたキャリアが途切れていく」と話す。

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はたらクリエイトを立ち上げた井上拓磨さん
Huffpost Japan/Shino Tanaka

 営業やプレゼン、PCスキルを持った母親が、育児のためにスキルを捨てる。フルタイムで働けず、希望の職に就くことができない。

周囲の目もある。母親としての「罪悪感」を覚えてしまうこともある。

「育児は母親のもの。働くなんて幼い子どもがかわいそう」という地域のプレッシャーも強い。

そんな社会課題を井上さんは「フルタイムで勤務できない、急に休みが必要になる日がある。それは障壁ではなく、ただの条件です。その条件を職場がクリアすればいいだけだと考えた」という。

この会社では、フレックスで勤務時間を組み、急な休みでも悩まず対応できるフローを提示するようにした。

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急な休みを取るときのフローチャート
はたらクリエイト提供

「罪悪感」は母親だけのもの?

「うちの子が、熱を出してしまって……今日はお休みをいただけませんか」

この一言を口にするのに、朝から気分が重くなる母親も多いだろう。父親ならば、子どもの休みを気にせず出社する人が多い。

夫婦2人の子どもだけど、母親ばかりが休まざるをえない状況は、都会も地方も変わらない。

「“3歳児神話”はいまだ根強い。休みの連絡をするたびに、会社に対して罪悪感を覚え、会社に行くたびに離れ離れになる子どもに罪悪感を覚える」と井上さんは話す。

井上さんも幼い子どもを持つ父親。取締役の高木奈津子さんと柚木真さんは未婚。

「自分も母親ではないし、取締役の2人も子育ての経験はない。『母親』という当事者ではない視点で、課題を冷静に考えることができた」という。

「子どもがかわいそう、という罪悪感を少しでも軽減できれば」と考えたのが、親子のお昼休憩だった。

正午の昼休憩になったと同時に、職場はいきなり騒がしくなる。2階から託児所にいた子どもたちが降りてくるのだ。

母親たちは、一緒にカフェスペースで昼食をとる。静かだったオフィスは、子どもたちの走り回る足音と、話し声に包まれる。 

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正午になると2階の託児所から子どもが来てランチを共にする
Huffpost Japan/Shino Tanaka

 入社して1年4カ月の佐藤夕子さんは「今の社会では、父親は育休すら取れないことが多い。男性も同じように柔軟な働き方があればいいのに」と話す。

夫側の職場も、同じくらい対応してくれたら、夫もかわいい我が子と昼休憩を一緒に過ごせるはずだ。

子どもはもうすぐ3歳。

「夫よりも、何なら私のほうが仕事に情熱を持ってるかも。週末に家にいるより、仕事をしている方が楽しい。だから長く続けたい。製造業でもレジ打ちでも、それぞれの楽しさを見つけられたかもしれないけど、スキルを身に着けて好きな仕事ができる環境は何事にも代えがたい」と笑う。

女性たちは入社してから、執筆のスキルを身に着けたり、興味を持てばプログラミングを覚えたりしていく。

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議題を整理しながら仕事を進めていく従業員たち
Huffpost Japan/Shino Tanaka

 2歳になる息子の育児をする有岡春香さんは「上田市でも、3歳以下の未満児保育は入れないことが多い。仕事の時だけ預かってもらえる託児所が付いていることは、なによりも『手をかけてあげられない』という罪悪感を和らげてくれました」という。

トイレに行ける!という喜び

3歳児を育てている佐藤さんは、1人で子どもと向き合っていた産後の生活を「子どもは可愛い。でも、それだけですべてが幸せ、というわけじゃない」と振り返った。

仕事を初めて一番の喜びは、スキルを活かせることでも誰かと話せることでもなく「好きな時間にトイレに行ける!」ということだった。

「家では子どもが王様。ぼろぼろになるまで振り回されています」と苦笑い。

「私は2人きりで子どもと過ごせないタイプでした。泣いて泣いて寝てくれない。焦ってプレッシャーでどうにかなりそうだった。トイレも自分のペースで行けない。物事が進まなくて、タスクがどんどん溜まっていく。気が付いたら夕方になっていることもしばしばです」

そんな状況を「家の中に2人だと、子どもは泣いていて、私は困っている。家の中全員が楽しくないじゃないですか。毎日寝る時間もなく、時には涙することもあった。母親のイライラは子どもに伝わる。分かっていても明るく対応できない日があった」という。

「実家の母には、働きたいというと『まだ子が小さいのに』と言われた。その年代の考えもあるかもしれないから、強くは否定しない。だって自分たちがおばあちゃんになったら、自分の考えが古いと言われる日が来ると思うので」と笑った。

働くにあたって、夫とは家事の分担を決めた。それぞれが得意な分野を持ち、半々になるようにしたという。

会社では母親としての自分の経験を、子育て世代向けの記事として書く仕事を任されている。書き方は、入社してから学んだ。

「文章を読んで、誰かの悩みが軽くなったり、ホッと楽になる瞬間があればと思います。自分の好みではなく、文章の先にある読み手の共感を得られるよう、書いた内容を客観視して出すようにしています」

子どもメインではない、自分の居場所を求めて

結婚まで都内の大手メーカーの情報システム部に勤務し、システムトラブルの修正や事務作業にあたっていたという亀田早紀さんは、上田市に転勤していた夫についてきた。

結婚したばかりのころは「ついていった先で子育てを中心に過ごしてもいいな」と考えていた。でも次第に、「子どもメインではない自分の居場所が欲しい」と思うようになったという。

しかし、この土地でいままで培ったスキルがどう活かせるのか分からなかった。

これからも転勤についていけば「正社員は難しい。パートを中心に探すしかない」と考えた。

亀田さんは以前の職場について「子どもがいる女性の先輩は時短で働いて、休んだりするのも大変そうだった。都内は通勤もある。子育てをしながらの仕事は重いと思った」と語る。

1歳3カ月から社内の託児所を利用し、もうすぐ子どもは3歳になる。

「自分が働きに出ることで、メリハリができた。仕事をすることで、夫が積極的に家事をするようになり、環境に合わせて分担ができた。おのずと効率的に物事を進めるようになりました」と話している。 

「天職だ」と働いていた母の姿。「社会の一としての自分を、母親だって確立したい

育児をきっかけに、仕事を辞める女性がいる。子育てのために一線を退いた女性のなかに、スキルを持っているのに就職戦線に乗っていけない人がいる。

「上田市に移るまで、その現状を知りませんでした。考えてみたら、自分の母親が楽しんで働く姿を見て育ったので、単純に驚きました。」と井上さんは話す。 

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井上拓磨さん
Huffpost Japan/Shino Tanaka

井上さんの母親は、大手予備校の数学講師だった。

就職試験は、まだ0歳だった井上さんをおんぶして受験していたという。

父親は団塊の世代。漫画「島耕作」シリーズに出てくるサラリーマンのようにバリバリと働いていた。

母親はいつも数学講師の仕事を「天職だわぁ」と語っていた。「楽しそうに働く母親の姿が、小さい頃から刷り込まれていた」と話す。

自身は、父親のように会社一筋のサラリーマンではなかった。「あえてキャリアを活かさない人生でした」とあっけらかんと語る。

「サラリーマンとして働き続けることも、自分のようにキャリアを途切らせて進むにしても、いろんなキャリアを男性は選べる。一方で、なぜ女性はキャリアを醸成できないのか。凝り固まった仕事形態を変えていこうと思いました」

子育てに集中することは、悪いことではない。でもそれしか選べなかったり、子育てに女性だけが縛られて空いた時間で働ける非正規職にしか就けないのは疑問を感じる。

「時間の制約は、夫である男性側の企業の理解も必要。男性は正規社員、女性は非正規で働くという構図は、地方のほうが強固です。女性が子育てで分断され、社会の一員としての自分を確立しにくい」という。

会社を立ち上げて、気が付いたこともある。「女性は腰掛で働く、という概念はなにも男性だけが持っているものではない。総合職的な仕事をするためのキャリアを作る際に、女性側も『パートで働くのに、こんな責任があるなんて』『パートなのにやらされすぎている』とパートという働き方に対して固定概念がある」と語る。

仕事は、主に都内の企業から発注を受けている。

「いかにプロ意識を持って取り組んでいくか。仕事のやり方や考え方、姿勢から土台を築いてきた。今までは時間に制約のある人材が、チャレンジする環境も整っていなかった。今後も、挑戦して失敗し乗り越える力を伸ばしていきたい」という。

今後は、バックオフィス業務や文章の制作・編集業務以外にも対応できる業務を増やし、自社事業など新規事業にも取り組んでいく予定だ。

親も、子どもも、ひとりの人間。

100人いたら100通りの子育てがあり、正解はありません。

初めての子育てで不安。子どもの教育はどうしよう。

つい眉間にしわを寄せながら、慌ただしく世話してしまう。

そんな声もよく聞こえてきます。

親が安心して子育てできて、子どもの時間を大切にする地域や社会にーー。

ハッシュタグ #子どものじかん で、みなさんの声を聞かせてください。