カラテカ矢部太郎さんは、88歳の大家さんとこうやって家族になった

一人暮らしの気ままさが好きだった。でも今は「家に明かりがついているとほっとする」
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Instagram / ttttarouuuu

細い体でいじられキャラ。バラエティ番組では体を張った罰ゲームをするお笑いコンビ・カラテカのボケ担当、矢部太郎さんは、8年前から一軒家の2階部分を間借りして「一人暮らし」をしている。

駅から近く、家賃は約9万円。

独身男性の自由を謳歌しているかと思いきや、実は1階に住む88歳の大家さんと「家族みたいな生活」をしているという。

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矢部さんは大家さんとの日常を、エッセイ漫画『大家さんと僕』(新潮社)で描いた。
『大家さんと僕』より

一緒に食事に出かけたり、大晦日に紅白をみたりするほど仲の良いふたり。

しかし引っ越してきた当初、矢部さんは大家さんの近すぎる距離感が少しイヤだったという。

■ 洗濯物を勝手に取り込む大家さんに戸惑い

部屋の持ち主とはいえ、普通大家さんは部屋に勝手に入ってきたりしないものだが......。

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『大家さんと僕』より

「一人暮らしのよさって、何時に帰ってもいいし、好きなことができるし、遅い時間でも大きな音で映画とかも見れるところだから、それが何となく違うなと感じました。正直最初は、若干嫌だなと感じました」と、矢部さんは語る。

■ ところがだんだん......

「矢部さん、お昼に食事でもいかがですか?」

大家さんはとても上品で言葉使いも丁寧だが、押しは強い。食事やお茶にも誘ってくる。

初めは遠慮のない大家さんに戸惑ったが、大家さんの温かさに触れ、矢部さんの気持ちは変化していく。

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『大家さんと僕』より

心の変化を、矢部さんはこう説明する。

「お茶に誘われて断るわけにもいかず、お部屋にあがってお話をしたんですが、大家さんのお話がとても面白くて......。話していくうちに『大家さんって結構魅力的な方なんだな』と思うようになっていきました」

■「大家と店子」から「助け合う」関係に

少しずつ崩れていく矢部さんの心の境界線。しだいに助け合う関係が築かれるようになった。

高齢の大家さんは、若い頃のようにできないこともある。たとえばカーテンをはずしたり、閉まってあったスーツケースを出したり、庭の草をむしったり。

矢部さんは自然と、そんな大家さんを手伝うようになった。

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『大家さんと僕』より

一方大家さんは、矢部さんの知らない世界を教えてくれる。そのなかでも矢部さんにとって新鮮だったのは「季節の楽しみ方」だ。

大家さんの家に来る前に一人暮らしをしていた時、季節の行事は矢部さんには縁遠いものだった。

「一人暮らしだと、一年の季節感を感じることはほとんどありませんでした」

「大家さんはお一人だけど、行事をきちんとやっていらっしゃって、僕に節分の豆を半分くれたり、冬至のゆず湯に使うゆずをわけてくださったりします」

「ああ、こういうの子どもの頃に家族でやっていたな、季節を楽しむ生活があったな、と大家さんと住むようになってから思い出しました」

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『大家さんと僕』より

■「寿命が延びたわ」の言葉が嬉しい

時には、前のような気ままな一人暮らしが恋しくなるときもあるが、やっぱり今の暮らしの方がいいそうだ。

「家に帰って明かりがついていると、帰ってきたなとほっとした気持ちになります。家に帰っている途中に救急車が音とかすると、うちじゃないかと不安になります」

「大家さんも『矢部さんがいてくださると安心』『寿命が延びたわ』と言ってくれて、それを聞くと何だか嬉しい気持ちになります」

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Satoko Yasuda

話し相手がいる生活の良さも知った。

「同世代の方だと、何をしゃべったらいいかわからなくなったりするんですが、大家さんはとても話しやすくて」

「一緒に色々な話をします。お互いに読書が好きなので、本の話をしたり、大家さんから本を貸してもらったり、感想を話し合うこともあって楽しいです」

■これは家族なの? 家族ではないの?

この関係は一体何だろうと、矢部さんは考えたそうだ。

「大家さんはすごく素敵な方で、昔の話をしてくれるのもすごく楽しくて。初めはこの関係はなんなんだろうって自分でもわからなかったんです」

「周りの人に大家さんの話をするうちに、ああこれはもしかして、家族なのかもしれないってだんだんわかってきました」

今後、結婚したいという気持ちもあるけれど、ふたりで住むには今の部屋はちょっと狭い。だけど「矢部さんがいなくなると寂しくなるわね」という大家さんを見ると「結婚はまだできないかも......」と思ってしまう。

「あ、でも僕が家を建てて大家さんに住んでもらうというのもありかもしれませんね」と話す矢部さんは、すっかり大家さんと家族だ。

「全くの他人と仲良くする秘訣はあるんですか」聞くと、しばらく考えて矢部さんはこう言った。

「そうですね......。大家さんから必要としてくれてるなっていう感じがして、それが嬉しかったのかもしれません。何か頼まれて、それに応えるのが嬉しかったと思うんですよね」

笑いを取れなくて落ち込んだ日も、自分を待っていてくれる人がいる。大家さんのいる場所、それが矢部さんにとって家族なのだろう。

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